2013年1月4日金曜日

プロカメラマンって何だろう

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ネットで写真やカメラ関連の掲示板を見ていると時々『プロカメラマン』という表記に出くわす。そこで語られている『プロカメラマン』像というものが中々にいじらしいものであってつい横やりを入れたくなってしまう。結局はクスッと笑うだけで何もしない訳だけれど。

例えばあるカメラの評判をみると『プロカメラマン』はこんなカメラを使わないとか、『プロカメラマン』が使っているからいいレンズだとか、『プロ』が認めた性能であるとか、百花繚乱の状態である。こうなると『プロカメラマン』なるものはスーパーマンのようであり、写真に関することなら機材的にも芸術的にも最先端を走っている人のことを指しているらしいと分かる。

野球選手の全てが王や長島やイチローではないのと同じように、F1レーサーが全てセナやシューマッハではないのと同じように、ピアニストが全てホロヴィッツやアルゲリッチではないのと同じように、『プロカメラマン』と呼ばれる人々もまた千差万別でありピンからキリまでおられるのである。

大体『プロカメラマン』って何だろうと考えると、それは写真を撮ることによって報酬を受け取る人々のことで、特にその報酬によって生計を立てている人々のことである。その中にはスーパーモデルを使ってファッション雑誌の表紙を撮影している人もいれば、駅に張ってあるような大判ポスターの商品撮影をしている人もいる。野球場で超望遠レンズを使って打者や投手の一挙手一投足を逃さぬようファインダーから目を離さないで撮影している人もいるし、ホテルの前で芸能人が出てくるのを何時間もじっと待っている人もいる。また修学旅行や結婚式などでスナップ写真や集合写真を撮る人もいるし、商店街の奥にある写真館でお見合い用の写真を撮る人もいる。

僕もその中のある場所に長い期間身を置いていた訳だけれど、この職業は本当に大変で、特にサラリーマンカメラマンからフリーランスとなって独立すると世間の逆風に一人で立ち向かわねばならないのである。

僕が初めて助手として仕事をさせて戴いたカメラマンの方との会話はいまだに忘れられない。もう老齢に差し掛かり引退も間近な方だった。
「カメラマンに一番大切なのは何だと思う?」
「技術とか経験とかセンスとかでしょうか」
するとその方はにやりと笑って言うのである。
「営業だよ」

また助手の先輩と話をしていると、よく喩えとして出てくるのが「売れているカメラマンには指紋がない」というものである。これは揉み手をしながら営業ばかりしているので何時の間にか手の皺がなくなってしまうよ、と面白可笑しく言っていたのである。

極端なことを言ってしまうと、カメラマンが売れて生計を立てられるかどうかは営業に掛かっていて、特に業界の人々との繋がりが大事である。もちろんある程度写真が上手でないといけないけれども、実はそれほど上手い必要もない。失敗していなければよい。それより営業なのである。

多くの『プロカメラマン』らは実はカメラの性能などにそれほど気を遣っていない。多分熱心なアマチュアでカメラヲタクと呼ばれる人々の方がずっとカメラの性能に気を遣っている。多くの『プロカメラマン』らはカメラの購入代金をどの程度の期間で償却できるかといったことが優先される。仕事だから当然である。冷徹にコスト判断の出来る人でないと生き残れないのである。

僕の場合はあまり有名ではない現場ばかりだったけれど、そうした現場を経験してくると、機材の評価に『プロカメラマン』も使っているという発言があると別の世界のことのようで何となく楽しくなってしまう。まあそういう場合もあるけれど、そうでない場合も多いからなあと思うのである。まだスチール写真の機材はカメラマン自身が購入するので当てはまることもある。でもムービーのカメラマンだと機材は専門機材屋さんからのレンタルなのでまず当てはまらない。趣味性は顧みられず、あったとしても僅かなことでしかない。

『プロカメラマン』が使っているからといって、その機材を頭から信用するのは少々危険なのである。カメラを購入するのは高い買い物である。自分の感覚で選ぶことを重視する方がいいと思う。


撮影地:奈良市
Sigma DP2 Merrill
Sigma Photo Pro


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